パラドックスの話(1)嘘付きのパラドックス

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多分9回くらいに分けてパラドックス(逆説)の話をしてみたいと思います。
パラドックスとは何か?というのも、この連載の中で少しずつ解き明かして いきます。この付近は実は私の大学院での専攻分野であったりします。

この「嘘つきのパラドックス」というのは、エピメニデスという哲学者が 「クレタ人は嘘つきだ」と言った、という話です。

それだけなら別に何もおかしくないようなのですが、困ったことにエピメ ニデス自身がクレタ島の出身でした。

だとするとクレタ人が嘘付きだというのならエピメニデスも嘘つきなのだ ろうか。だとすると「クレタ人は嘘つきだ」という言葉自体も嘘なのだろ うか。だとするとクレタ人は嘘つきではないのだろうか。ではエピメニデ スの言ったことは正しいのだろうか。ではやはりクレタ人は嘘つきなのだ ろうか?

ということで、訳の分からない世界になってしまいます。

しかしこの問題について現代の論理学の訓練を受けた人は、全然パラドッ クスに感じません。

嘘つきといっても言ってる事の全てが嘘という訳ではなく、嘘をよくつく 人という意味だろうから、その言葉は嘘であってもなくてもよい。だから 「クレタ人は嘘つきだ」というのが真であったとしても、クレタ人は嘘も 本当のことも言うわけだからエピメニデスが本当のことを言っても、全然 矛盾しない。

更に「嘘つき」というのを「常に嘘を付く人」という意味で使用したとし ても「クレタ人は嘘つきだ」というのの正確な否定形は「クレタ人の中に も本当のことを言う場合もある人がいる」なので、エピメニデスが本当の ことを言っても、全然矛盾しない。

記号的にいえば、¬(∀x P(x)) ⇔ ∃x ¬P(x) であるわけです。否定演算 を行うことによって、all 限定子と some 限定子が入れ替わるという、 『ドモルガンの法則』が効いて来ます。そのドモルガンの法則が

 not (常に嘘を付く) = 時には本当のことを言う  not (全てのクレタ人) = あるクレタ人が not

と2つの次元で作用しているので、どこにも矛盾は生じていません。

(2001-02-26)
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