sinwa(12) 海幸彦・山幸彦

古事記(こじき)上巻の最後は今までの雰囲気から一転して南洋的な美しい物語で完結しています。

天孫降臨で降りてきた邇邇芸命(ににぎのみこと)木花咲耶姫(このはなさくやひめ)の間の子供は、生まれた順番に、火照命(ほてりのみこと)火須勢理命(ほすせりのみこと)火遠理命(ほをりのみこと)でした。この長兄の火照命(ほてりのみこと)海幸彦(うみさちひこ)としてさまざまな魚を採り、末弟の火遠理命(ほをりのみこと)山幸彦(やまさちひこ)としていろいろな獣を採っていました。

ある時山幸彦(やまさちひこ)は兄の海幸彦(うみさちひこ)に「一度お互いの道具を交換して仕事をしてみましょうよ」と言いますが、兄は許しません。しかし何度も言う内にやっと承知してくれて、海幸彦が狩りの道具を持って山に、山幸彦が釣りの道具を持って海に出掛けました。

ところがやはり二人とも慣れぬことをしたので、どちらも全く獲物を得ることができませんでした。それどころか山幸彦(やまさちひこ)は兄の釣針をなくしてしまいます。夕方家に帰って来てからそのことを言うと海幸彦(うみさちひこ)は怒って、釣針を返せ、と言います。そこで山幸彦(やまさちひこ)は自分の剣を割って500本の釣針を作って返しますが、「あの釣針でないと駄目だ」と言います。更に1000本作っても、兄の言葉は変りませんでした。

困ってしまった山幸彦(やまさちひこ)が海辺に行き、途方にくれて海を眺めていますと塩椎神(しおつちのかみ)(潮流の神様)が「どうしたんですか」と声を掛けて来ました。そこで山幸彦(やまさちひこ)が事情を話すと「それでは私の言う通りにしてご覧なさい」と塩椎神(しおつちのかみ)山幸彦(やまさちひこ)に次のような助言をしてくれました。「ここから舟に乗って潮に流されるままずっと行きなさい。私が貴方を導きましょう。やがて宮殿が見えてきます。そこは綿津見神(わだつみのかみ)の宮殿です。そこの入り口の近くの泉のそばに1本の木があります。そこに登って待っていなさい」と。

さて、山幸彦(やまさちひこ)が言われた通りにすると本当に宮殿が見えて来ました。そこで山幸彦(やまさちひこ)は舟を降り、泉のそばの木に登りました。やがて宮殿の門から一人の女が出て来ました。女は水を汲みに来たようでしたが、泉の水面に映った山幸彦(やまさちひこ)の姿を見てびっくりして見上げます。山幸彦は「水を一杯くださいませんか」と言いましたので、女が容器に汲んで渡しますと、山幸彦(やまさちひこ)は自分の持っていた珠を口に含んでから容器に吐き入れますと、珠は容器から離れなくなってしまいました。

女は不思議に思い、容器をそのまま自分がお仕えしている姫様、豊玉姫(とよたまひめ)の所に持っていきました。豊玉姫(とよたまひめ)がどうしたことかと聞きますと女は「入り口の泉の木の上にそれはたいそう立派な男の方がおられます。水を所望なさったので差し上げましたら、この珠を容器に入れられました。すると取れなくなってしまったのです」と答えました。豊玉姫(とよたまひめ)は興味を持って自ら入り口まで出て、木の上の山幸彦(やまさちひこ)を見ました。そして一目で好きになってしまい、にっこり微笑みますと、山幸彦(やまさちひこ)も微笑み返しました。

そこで豊玉姫(とよたまひめ)は父の綿津見神(わだつみのかみ)の所へ行き、宮殿の前に立派な男の方がいるんですよ。中に入って頂いていいですか、と許しを求めます。そこで綿津見神(わだつみのかみ)も出て行って木の上を見ますと「これは天の神の御子ではありませんか。どうぞお入り下さい」と中へ招き入れ丁重にもてなし、立派なご馳走を差し上げました。そしてやがて山幸彦(やまさちひこ)豊玉姫(とよたまひめ)は結婚し、三年の月日が流れました。

さて幸せな日々にすっかり自分がここへ来た用事を忘れてしまっていた山幸彦(やまさちひこ)ですが、ある時突然、釣針のことを思い出しました。そこでそのことを豊玉姫(とよたまひめ)に相談しますと、父の綿津見神(わだつみのかみ)が魚たちに大集合を掛け、心当たりのある者はいないか、と尋ねました。すると何匹からの魚たちが「近頃赤鯛が喉に骨がささって痛いと申しております。もしかしたらそれではないでしょうか」と言いました。そこで赤鯛が呼ばれ、喉を探ったところ、思った通り釣針が出て来ました。

綿津見神(わだつみのかみ)はこの釣針をきれいに洗ってから山幸彦(やまさちひこ)に返し、「婿殿はこれから地上にお帰りになるでしょうが、釣針を兄上殿に返す時に『この釣針は憂鬱になる針、いらいらする針、貧しくなる針、愚かになる針』と言ってお返しなさい。それからこれをお持ちなさい」と言って潮満珠と潮干珠を渡し、「お兄さんが高い所に田を作ったら貴方は低い所に田を作りなさい。お兄さんが低い所に田を作ったら貴方は高い所に田を作りなさい」と助言しました。そうしてワニに命じて、山幸彦(やまさちひこ)を岸辺まで届けさせました。

さて山幸彦(やまさちひこ)が言われた通りにして釣針を返し言われた通りの田の作り方をしますと、山幸彦(やまさちひこ)の田には水がよく来て作物が実りますが、海幸彦(うみさちひこ)の田には水が来なかったり多すぎたりして全然収穫できません。だんだん海幸彦(うみさちひこ)は貧しくなり心も荒れて来ました。そしてとうとう爆発して、山幸彦(やまさちひこ)の所へ攻めて来ようとしましたので、山幸彦(やまさちひこ)はもらった潮満珠(しおみつたま)を出して「潮満ちよ」と言いました。するとたちまち水があふれて海幸彦(うみさちひこ)はおぼれてしまいます。「助けてくれぇ」と言う声に山幸彦(やまさちひこ)が潮干珠を出して「潮干け」と言いますと、さっと水は引いて海幸彦(うみさちひこ)は助かりました。しかしそれでもまた攻めて来ようとするのでまた潮満珠(しおみつたま)を使います。するとまたおぼれて惨めな様子ですので、潮干珠(しおふるたま)で水を引かせます。これを何度か繰り返すと、兄もどうやら弟には海の神の守護がついているということが分かり、大人しくなって、これから後はお前の言うことを聞くようにしようと言いました。

さて、そうこうする内に豊玉姫(とよたまひめ)が夫を追って地上にやって来ました。そして言うには「実はあなたの子供が出来たんですよ」と言うので、山幸彦(やまさちひこ)は喜んで、豊玉姫(とよたまひめ)のために産屋を建てました。ところがあんまりしっかりしたのを作ろうとしていたために屋根を完全に葺き終えない内に姫は臨月になり、子供が生まれてしまいました。そこで、この生まれた男の子を鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)(うがやふきあえずのみこと)と言います。

ところで、このお産の時豊玉姫(とよたまひめ)が「女はお産の時には本来の姿になってしまいます。恥ずかしいので絶対中を見ないでくださいね」と言ったのですが、我が子を一目でも早く見たい山幸彦(やまさちひこ)は我慢仕切れずに産屋の中をのぞいてしまいました。するとそこにはお産に苦しむ大きなワニの姿がありました。

豊玉姫(とよたまひめ)はこれを恥ずかしがり「見ないでと言ったのに」と言い残して、子供を置いたまま綿津見神(わだつみのかみ)の所に帰ってしまいました。しかし豊玉姫(とよたまひめ)はどうしても夫のことが忘れられず、子供のことも気になるので、妹の玉依姫(たまよりひめ)に「あの子を育てに行ってくれないか」と頼み、あわせて夫への歌を託しました。

 赤玉は 緒さえ光れど 白玉の 君が装いし 貴くありけり

これに山幸彦が返歌をして

 沖つ鳥 鴨著く島に 我が率寝し 妹は忘れじ 世のことごとに

と歌いました。山幸彦(やまさちひこ)こと火遠理命(ほをりのみこと)(別名:天津日高日子穂々出見命(あまつひこひこほほでみのみこと))は高千穂の山の西にある高千穂の宮で580年間暮らしました。

また、鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)は育ててくれた玉依姫(たまよりひめ)と結婚し、五瀬命・稲氷命・御毛沼命・若御毛沼命という4人の子供が生まれました。この内御毛沼命は常世の国へ行き、稲氷命は綿津見神(わだつみのかみ)の国へ行きました。そして五瀬命と若御毛沼命がやがてこの宮崎の地を出て、大和へ向い、若御毛沼命が神武天皇となるのですが、そこからは古事記(こじき)中巻・伝説の世界の話となります。神話の世界の話はここまでです。

山幸彦(やまさちひこ)豊玉姫(とよたまひめ)が住んだ場所とされているのは、宮崎県の青島神社(あおしまじんじゃ)です。ここは日南海岸国定公園の北の端にあり、宮崎の市街地から15kmの近くにあります。鬼の洗濯板などが有名で多くの観光客が押し寄せています。

息子の鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)の宮は、そこから更に南に20kmほど行った所にある鵜戸神宮(うどじんぐう)です。青島の方は目の前にどんと島がある感じですが、鵜戸神宮はバス停あるいは観光パスの駐車場で降りるとかなり歩きます。自家用車で行くと鳥居の前の駐車場が(空いていれば)利用できます。しかし鳥居からでも本殿まではかなり距離があります。本殿は崖の途中に造られており、よくこんな場所に作ったものだという感じです。

山幸彦(やまさちひこ)が海の宮に行き海の神の娘と結婚するというモチーフは浦島太郎の話と似たパターンであるとして、この話はしばしば浦島太郎の原型の一つと考えられています。

なお、宮崎県には「高千穂」という場所が2ヶ所あります。ひとつは宮崎県北部の高千穂町で、もうひとつは宮崎県南部の高千穂峰です。北の高千穂町は神楽(かぐら)で有名な所ですが、邇邇芸命(ににぎのみこと)が降りてきたのは、一般に南の高千穂峰のほうとされます。ここに第一歩をしるしたのではという場所に「天の逆鉾」(あめのさかほこ)が刺さっています。山を降りた所にある霧島神宮(きりしまじんぐう)邇邇芸命(ににぎのみこと)を祭る神社です。



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