↑

セーラー万年筆の創業(1911)

日本の三大万年筆メーカーのひとつ、セーラー万年筆は明治44年(1911)2月11日広島県呉市稲荷町で創業しました。創業者は阪田久五郎(当時28才)。呉は舞鶴や佐世保・横須賀などと並ぶ海軍の町ですので、海軍の水兵さんたちにちなんで「セーラー(sailor)」のブランドを使用することになります。なおセーラーと並ぶ老舗のパイロットは、向こうが水兵ならこちらは水先案内人で、ということでパイロット(pilot)のブランドを使用しはじめたと俗に言われています。

東洋では筆記具として長い間、毛筆が使用されていましたが、西洋では羽根ペンが使用されていました。一般に鷲の羽根の先を尖らせたものですが、羽根の先にインクを付けて書くので、少し書いてはインクを付け、少し書いてはインクを付け、というたいへんなものでした。また羽根は弱いので折れやすい上、近代になって字を書く人が増えてくると、鷲の羽根も不足してきます。そこで18世紀にイギリスで製造の手間もかからず丈夫な金属ペンが発明されます。ここから近代ペンの歴史が始まりました。

1809年にイギリスのFrederick Bartholomew Folschがペン軸内にインクをためておき、そこからインクを供給することで数分程度は続けて筆記することのペンを発明。これをfountain penと名付けました。現在でも万年筆というのは英語では fountain pen と呼ばれています。しかし初期のこのタイプのペンは(シャープペンシルの芯をノックして押し出すように)インクは指で押し出してペン先に供給しなければなりませんでしたし、インクの酸で金属が腐食しやすく、耐久性の良くないものでした。

この耐久性の問題に対しては金(gold)を使用すれば腐食しにくいペンを作ることは可能と思われましたが、金は柔らかすぎてペン先の圧力に耐えきれません。そんな中、19世紀半ばにペン先にイリジウムを使用することで強いペンが作れることが発見され、これ以降の万年筆の主流になります。

もうひとつのいちいち指でインクを押し出さなければならないという問題について解答を出したのはアメリカのLewis Watermanでした。保険の外交をしていて外で筆記をする機会の多かった彼は、インクの管を細くすると毛管現象によってインクが常時ペン先に供給されるということを思いつきます。これがそれ以降の万年筆の基本原理となりました。

ウォーターマンは1884年に自身の会社を設立します。1889年にはGeorge Parkerが未使用時にインクを貯蔵部に引き戻してインクのこぼれが起きにくい万年筆を発明してこれを売り出す会社パーカー社を作りました。1908年にはハンブルグの職人グループが共同でモンブラン社を設立、更に1908年にはインクをインク壺から自動的に吸い上げる機構を持った万年筆を発明したWalter Sheafferが自身の会社シェーファー社を操業します。

阪田久五郎の創業はまさにこの万年筆の黎明期のことでした。海軍の町・呉には当時欧米に留学して進んだ軍事技術や航海技術を学んで帰国してきた将校が多くいました。阪田は彼らが欧米から持ち帰って使用していた万年筆に興味を持ち、兄の友人の将校白髪長三郎からその1本をもらって自分でもこういうペンを作ってみようと研究をはじめました。

阪田は欧米の万年筆の製造技術自体には触れていないため、インクの酸で腐食しない素材を見つけること自体でもかなり苦労していますが中でも困ったのがペン先の処理の問題でした。もらった外国製の万年筆のとおりに作っても良かったのですが、それではどうも均等にインクが紙に出て行かず、濃淡が出過ぎることでした。これをなんとか均一の濃さで書けるようにしようと試行錯誤を重ねた結果生み出したのが、ペン先がふたつに割れるという形式です。この発明によって、阪田の万年筆は爆発的にヒットすることになります。

阪田はこの大ヒットを背景に工場を会社組織とし、昭和7年に株式会社セーラー万年筆阪田製作所が生まれました。

なおこの頃の万年筆は全てインクはインク壺から吸い上げるものであり、現在主流となっているカートリッジ方式を考案したのは昭和32年のプラチナです。大学の古い教室などには、今でも机のところにインク壺を置くポケットが設置されているようなところもまだ残っているかも知れません。

セーラー万年筆はその後昭和23年にはボールペンを国産メーカーとしては初めて発売。筆記具というものを一気に手軽なものへと変えました。当時一般には「玉ペン式万年筆」などと言われたようです。更に昭和47年には筆ペンを発明。ここに西洋と東洋の筆記具が合体しました。西洋式の筆記具に慣れすぎてしまった現代日本人に、この筆ペンというのはとても便利で、毛筆がうまく書けないという人でも気軽に使える、画期的な発明でした。

私は中学に入学した時に親と祖母から1本ずつ万年筆をもらいました。親が買ってくれたのがパイロット製の14金で、祖母のはプラチナ製の18金だったと思います。どちらもよく使い、特にパイロットの14金のものは一度ペン先を交換してもらって使い続けました。大学に入った時にまた祖母から今度はシェーファーの万年筆をもらったのですが、これがその昔風のもので、実は使い方が分からず(^^;; 1年ほどそのままにしていました。ある時、文具に詳しい知人からこれはインク壺から吸って使用するものだと教えられ、でもこれに合うカートリッジもあるよ、と聞かされたので、結局その万年筆をカートリッジで運用していました。

ところがこのシェーファーの万年筆は使い始めてから2〜3年でダメになってしまいます。私はそのころから、やはり日本の技術は凄いんじゃないかと思うようになりました。で、ダメになってしまったので新しいのを買おうと文具売り場に行った時に、ふと目にしたのがセーラーの小型万年筆でした。

金ではなくアルミか何かの合金のペン先で価格は確か500円だったと思います。他の万年筆がガラスケースの中に収まっているのに、これは適当にペン立てにどっさり立ててありました。大丈夫かな?と思ったのですが、安いこともあり買ってみたら、実はこの万年筆が大当たりでした。(結果的には自分で買った唯一の万年筆になる)

結局私はこのセーラー製の小型万年筆を10年以上愛用していました。それまで私は万年筆といえばパイロットかプラチナと思っていたのですが、どうしてどうしてセーラーの万年筆も凄いぞ、ということを認識したのでした。


(2004-02-11)

↑ Dropped down from 今日は何の日.

(C)copyright ffortune.net 1995-2013 produced by ffortune and Lumi.
お問い合わせはこちらから