心への旅(1)心理学の系譜

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旧16番会議室が開いていた間というのは、私が本職の方でかなり追い詰められ たような状態にあった期間で、お世話役のあまのさんから期待を掛けて頂いてい たにも関わらず、まとまったupができずに色々と心残りなものがありました。

先月くらいになってやっと仕事の方も転換点に達して、私も色々とやり方を変え て行こうと思い、内的に色々なことを書きたい欲求が高まって来ています。易で いえば水風井から風沢中孚への変化が起きています。そこで、少し心理学関連の 話を20〜30回くらいの予定で書いてみたいと思います。

心理学という学問が成立したのはそんなに古くはありません。1879年にWilhelm Wundt(1832-1920)がライプチヒ大学に心理学実験室を設立したのが近代心理学の 出発点であるとされていますので、まだ100年ちょっとの歴史しか無い訳です。

ヴントの考え方は構成主義(structualism)と言われます。これは近代自然科学の 主流の考え方をそのまま心理の世界にも適用しようとしたもので、人間の意識は 感覚・知覚・観念などの複合体であると考えた上で、そのような意識を構成する 要素の間の関係や相互作用を分析しようとするものでした。つまり物質を分解し ていって、分子や原子を発見したように、人間の心理の構造を分析しようとした のです。

この方向を押し進めて行くと機能主義や行動主義といった分野に行き着きます。 機能主義(functionalism)はWilliam James(1842-1910)が確立したもので、心理学 の目的は知覚・知能・意志・記憶などといった精神の機能を研究することである べきであるとするものです。また行動主義(behaviorism)はJohn Broadus Watson (1878-1958)が確立したもので、人間の行動を説明するのに「意識」などといった 「曖昧な概念」は排除すべきで、有機体への刺激や物理的現象から全ての行動を 説明することができるはずだ、という考え方です。

心理学も初期の頃はこのような「科学的方法論」が非常に強力でした。そして今 でもまだ心理学会の主流はそちらにあるのです。

しかしやがてそれを批判する勢力が出てきます。最初に登場するのはおなじみの 「ゲシュタルト心理学(Gestalt psychology」です。

ゲシュタルト心理学は Max Werthheimer(1880-1943)や Wolfgang Koehler(1887- 1957)らにより創始されました。彼等は人間の心理行動を構成された要素の働きに よって捉えることに反対し、むしろ体系だった全体こそが主体であるという説を 唱えます。例えば人が音楽を聞く場合、個々の音の知覚よりも全体としてのメロ ディーの方に知覚の優勢があるとする訳です。つまり分解して捉えるのではなく 全体を見なければ心理学的な人間の知覚や行動は把握できないとするものでした。 この考え方は近代自然科学を支えてきた還元主義に対する小さな反乱の開始とな るものと言えましょう。

彼らは暗闇の中で2つの光を連続して点滅させた時、それが移動したように知覚 される現象(仮現運動)を調べていてこの考えに到達しました。

そしてやがて精神分析が登場します。心理学に疎い人でもその名を知るフロイト とユングによって創始されたこの分野は元々神経症の治療の現場から生まれたも のですが、汎用的で客観的な理論が個々の患者を治療する場合にあまり役に立た ず、その各個人の内面において真実であることを探求しなければ解決が導けない という考え方に立脚するものです。

鉛筆が怖いと言っている患者に「鉛筆は全然怖くないんだよ」と諭しても何にも ならない。なぜその患者にとって鉛筆が怖いのか、というその個人の内面の真実 を探求しない限り、神経症の治療はうまく行かなかったのです。

彼等はその探求を進めて行った結果、人間の心理構造には本人が意識していない もの「無意識」というものが存在すると考えないと色々な現象を説明できないと いうことに気付きます。この「無意識」は通常の「意識」の「下」で活動してい るものと考えられ、ここに「深層心理学」という分野が開かれたのです。

この精神分析の立場というのは占い師が来訪者に対面するときの立場とたいへん よく似ています。占い師が被占者に告げるべきことは、その本人にとっての問題 や解決手法であるべきで、一般的・普遍的方法では必ずしも役に立ちません。

逆に言えば一つの問題に対していつも一つの答えを公式のように正確に用意して しまうタイプの人は占い師やセラピスト向きではありません。例えば「上司とう まく行かなくて疲れてるんです」という悩みに対して「仕事は金を稼ぐ手段なん だから、金が命令をしてると思って我慢して働きなさい」という答えを誰にでも 言うようでは、占い師としてもセラピストとしても失格でしょう。

あくまで相談者の心に同調し、本人の個々の事情をよく把握した上で、同じ側の 立場から正解なき答えを模索しなければ、解決はありえないのです。

このような考え方は更にもうひとつ新しい心理学の分野を生みました。人間性心 理学(humanistic psychology)です。これは Abraham Maslow(1908-1970)や Carl Ransom Rogers(1902-)が創始したもので、人が自分自身の運命を切り開く主体で あるという考え方に立脚します。つまり運命や環境が人間の行動を決めるのでは なく、人自身が自分で物事を選択し意志を行使し、未来を作って行くのだという 考え方をベースとします。

これは「人間は運命の人質に非ず」という言葉で表現されます。外界の刺激など により人間の行動を説明しようとしていた科学的心理学に真っ向うから対決する ものと言えましょう。また一方では精神分析は無意識というものを重要視しすぎ ていて、人間の意識的主体を見失っていると批判するのです。このことから人間 性心理学は心理学の「第三の波」とも言われます。
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