心への旅(5)無意識の世界

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フロイトやユングは神経症の治療を通して、人間の心の中には意識には現れない
部分が存在すると考えた方が神経症の起きるメカニズムを合理的に説明できるこ
とから「無意識」という概念に行き当りました。

さて、その「無意識」ですが、各種のコンプレックスが追いやられる程度のもの
であれば、意識が日常暮らしている家やオフィスから無意識は納屋や倉庫程度の
ものと考えて差し支えないのでしょうが、ユングは自分の深い体験から、この無
意識は相当広いものであるという認識を持ちました。

またユングは色々な事例を研究していくうちに、人間の意識の中には個人個人で
その現れ方は異なっても、ある共通の構造をもった心の働きが存在することに気
付き、それが無意識の奥の方にあるひとつの原子的な構造体の映し出すイメージ
として存在しているのではないかと考えるようになります。

そのような原子的構造体は誰の心の中にも同じように存在していると考えられた
ため、ユングはこの構造体に「元型(archetype)」という名前を付け、この元型
が存在する部分は人類に共通の層であると考え「普遍的無意識」と呼びました。
そして個人の無意識はその上の層に存在すると考えたのです。

これは例えば心臓があり血管や神経のネットワークが張り巡らされているという
共通の構造を持つ人間が、具体的には各個人ごとにサイズや形の違う器官を持っ
ているように、抽象的な概念であると考えることができるでしょう。

従って人間の体のシステムそのものは見えず、見えるのは個々の具体的な体のみ
であるのと同様、元型はその投影された像だけが認識され、元型そのものを認識
することはできません。

この元型が作り出すイメージはしばしば夢の中に象徴的に登場します。また古い
伝説や昔話などの中に現れていることもあります。

ユングがこのような概念を作り上げたのは、神経症の治療において患者の心の中
に存在する色々なコンプレックスやイメージを分類把握するためでした。医学で
ひとつひとつの対象物を見て「これは心臓という器官だ」とか「これは血管のネ
ットワークだ」と認識して問題を整理するのと同様のことがしたかったというこ
とでしょう。

次回からは、この元型にどのようなものがあるかというのを少しずつ見て行くこ
とにします。


ところで、フロイトもユングも、無意識の世界を探訪する手段として夢というも
のに注目しました。特にフロイトの考え方は名著「夢判断」(新潮文庫に収録)
で見ることができます。

夢が重要なのは通常起きているときは境目がわりと明確な意識と無意識が、夢の
中では境界が曖昧になって、無意識の中のイメージが本人に認知される形で登場
してくるからです。そこで夢は人の無意識の中をさぐる重要な道具になるのです。

フロイトは夢の中に現れる色々な人物や物体あるいは行動は無意識の中に押し込
められた種々の観念やエネルギーのシンボルであると考え、夢は抑圧された願望
を疑似的に充足させているものであると考えました。

そして、その願望の充足が直接的な表現を取らないのは、あからさまな表現を自
我が嫌って検閲を行ない、変形させられた結果だと考えたのです。例えば我々は
しばしば空を飛ぶ夢を見ます。空を飛ぶのはとても気持ちのよいものです。フロ
イトは、その気持ちの良さというのが実は性行為の気持ち良さを代替表現として
飛行にすり替えられたものと解釈します。

一般にフロイトは無意識の中で非常に重要な働きをしているのは人間の性衝動に
関するエネルギーであると考え、これにリビドー(libido)という名前を付けます。
一方アドラーはリビドーは性的なエネルギーというよりもむしろ権力欲ではない
かと考えます。

このフロイトとアドラーの対立は根深いものでしたが、ユングはここからリビド
ーはむしろ汎用的なエネルギーで、それぞれの個人において性的エネルギーに見
えたり権力欲のエネルギーに見えたりするのではないか、と考えるようになりま
す。つまりフロイトという個人においてはリビドーは性的エネルギーに見えたし、
アドラーという個人においては権力欲のエネルギーに見えたのだと考えたのです。

なお、フロイトは結局、夢の分析による神経症の治療はやめてしまい、もっぱら
自由連想に頼るようになります。逆にユングは夢分析を重視し、自由連想は採用
しませんでした。

フロイト流の連想法とユング流の夢分析における連想法は直線型と放射型という
区分けをすることができます。フロイト流では例えば「鉛筆」というシンボルが
あったとき、「鉛筆から何を連想しますか?」と質問し、クライアントが例えば
「紙」と答えると「では紙からは何を連想しますか?」のように質問を続けて、
問題に迫ろうとします。これに対してユング流では夢の中に鉛筆が現れた場合、
「鉛筆から何を連想しますか?」と質問し「紙」という答えが返ってくると、
「では、紙以外に、鉛筆から何を連想しますか?」とあくまで問題の存在してい
そうな所に集中攻撃を掛けて問題をあぶりだそうとします。
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