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心への旅(9)元型:アニムス

さて、長くなりますのでアニムスは稿を分けました。

アニムスについて、ユング自身は男性なのでよく分からない面もあったようで、
その点に関して妻のエマ・ユングに分析をしてもらっています。この内容は次の
本に書かれています。

  エマ・ユング「内なる異性」海鳴社 (笠原・吉本訳)

アニムスもアニマと同じように4つのレベルに分類できるとして、力のアニムス、
行為のアニムス、言葉のアニムス、意味のアニムス、と名付けています。

力のアニムスは、スポーツ選手やボディ・ビルダーなどのイメージで表わされ、単
に肉体的に腕力を持っている人物として登場します。

行為のアニムスはいわゆる「頼もしい」男性像です。こういう人に寄っかかってい
れば、安心しておけるような、そういう男性のイメージです。

言葉のアニムスになると牧師や大学教授などのイメージで表わされ、思想・精神の
伝達者となります。そして意味のアニムスだと思想・精神の具現者となり、これは
もう聖者のような存在です。

というところまで見て分かるとおり、アニムスには性的なイメージはあまり付随し
ていません。これはアニマとはかなり異なる点です。

アニムスも、ペルソナを補充して心にやすらぎを与える存在であると同時にアニマ
と同様激しい破壊者となることもあります。

アニムスは妥協を許さない存在なので、アニムスが主役に飛び出してきてしまった
女性は絶対的な確信で意見を述べ、一切の反論に耳を貸さないと言われます。逆に
ふだんアニムスを抑圧して、まさに女らしく生きてきた女性が、いったんアニムス
が顔を持ちあげた時、その動きに翻弄され、息子にそれを投影して過激な教育ママ
になったりすると言われます。

女性側がアニムスにとらわれてしまった時、しばしばパートナーの男性は反動的に
自分のアニマにとらわれてしまったりするようです。すると、女性側は筋が通って
いようといまいと構わず強い意見を主張し、男性側はムードに流されて、また反論
にもならないような感情的な反対意見を述べ、議論は平行線をたどるという事態に
陥るケースです。こういう場合は、一息ついてから仕切直ししないと解決は難しい。


などと、ここまで書いてきて、若干?の違和感を覚えられた方も多いのではないか
と思います。

実はここに述べたアニマ・アニムス論はあくまで1930年代のヨーロッパにおいてユ
ングやその回りの人々、例えば妻エマや高弟マリー・ルイーズ・フォン・フランツ
などによってまとめあげられたもので、あくまでヨーロッパにおけるアニマやアニ
ムスの状況にすぎません。

この点について河合氏や秋山氏もしばしば各々の著書の中で書いておられることで
すが、日本ではかなり事情が違うようです。

まず、アニマ・アニムスを4分類した話ですが、実はユングはこれを4段階に発達
するものと考えています。しかし日本においては、少なくとも、そのような形での
発達という形ではアニマ・アニムスをとらえることはできないようです。その辺が
日本人の精神構造の中ではけっこう曖昧です。

これは、西洋には若者が数々の冒険の結果お姫さまを得て結婚するタイプの話がた
くさんあるのに、日本ではほとんど例を見ないということからも想像が付きます。

またアニマ・アニムスがペルソナと対になるものという事情のゆえ、現代のように
女性の社会的地位に関して各種の変化が起きている中では、特にアニムスの現れ方
も相当変化しているように思われます。この辺りは、今後、日本国内の若い女性の
分析家の方々の研究を待ちたいところです。

河合氏は人間のたましいの原型は本来両性具有のものではなかろうか、と想像して
おられます。それが人間の社会的発達の段階で、男性的なものと女性的なものに分
解されて、男性の場合は男性的なものがペルソナの像としてまとめあげられ、女性
的なものはアニマにまとまる。女性の場合は女性的なものがペルソナとなり、男性
的なものがアニムスになる。そのような仮説を立てられています。

だとすると、現代のように「男性的もの」・「女性的なもの」という境界そのもの
が揺らいでいる時代においては、女性がいわゆる男性的なものを集めたペルソナを
持っていたり、あるいは男性がいわゆる女性的なものを集めたペルソナを持ってい
てもおかしくはないのではないでしょうか。

実際、男性の同性愛者のアニマがかなり女性的な男性像で表現されることはあるの
だそうですし、女性の場合は異性愛者でもアニムスでなくアニマを抱えていること
があるのではないかと聞いています。

考えてみると、最初ユングたちがこの問題にとりくんだ頃のヨーロッパの事情とい
うのが、あまりにも男性的な社会構造を持っていたため、「たましい」は女性像、
という考え方が進行してしまったのかも知れません。

だとすると、アニマ・アニムスというのは、むしろ性別とは無関係に心のやすらぎ
を与える存在と考えた方がよいのでしょう。実際、アニマが現実世界で女性以外の
ものに投影されている男性はけっこういるようです。そういう人のアニマの投影物
は、たとえばサラブレッドだったり、車だったり、ゴルフクラブだったりします。
そしてその奥さんはそういう夫の趣味に対して若干の嫉妬心を持ったりするのです。
逆もまた真なりですが。


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