大黒天

前々回に「お地蔵さん」で神仏習合の民間信仰上にある仏の姿を見たのですが、
今回の「大黒」はお地蔵さん以上に民間の中に溶け込んで生きています。

大黒様は七福神の一人ですが、七福神とは恵比寿、大黒、毘沙門、弁財、布袋、
福禄寿、寿老人 の七神ということになっています。この構成は大黒・毘沙門・
弁財がインドの神、布袋・福禄寿・寿老人が中国の神、恵比寿が日本の神とい
う構成です。この中でも特に恵比寿と大黒は福の神の代表として民間の信仰は
厚、しばしばこの二尊を並べて彫った人形が家庭に置いてあったりします。

恵比寿については「八百万の神々」の中で述べることになると思いますので、
ここでは多くを語りませんが、この大黒というのは果してどういう神様なので
しょうか。

大黒天は仏教においては、インド起源、つまりヒンドゥー教起源の神であり、
帝釈天・多門天などと同様に仏教の天部に所属する仏とされます。そしてこの
大黒天(マハーカーラ)とはその名の示す通り暗黒の中に住み死を司る恐怖の
神でした。なぜこの神が福の神になってしまったのでしょう。

大黒天に関する記述は孔雀王経や仁王経に見られます。それによればこの神は
不老不死の秘薬を持っており、自分の血肉を与えると、それに応じてその秘薬
を分け与えてくれるという神でした。しかしその神に対峙した時に、恐れたり
あるいはだまそうとしたりすれば、たちどころにその者の生命を奪ってしまう
真に恐怖の神でした。

大黒天ことマハーカーラはインドの最高神の一人であるシヴァ神の夜の姿とい
う説があり、シヴァの姿の時の妻がパールヴァティであり、夜の姿の時の妻が
インドで最も凶暴な女神カーリーであるとされます。カーリーも興味深い神で
すが今回は深入りはやめておきましょう。なお「カルカッタ」という地名は、
そこにカーリー神殿があったことから由来しています。またカーリーのことを
大黒天女と呼ぶ呼び方もあります。

さてこの恐怖の大黒天です、実は仏教の伝搬の途中で色々と性格が変わって行
っています。まず一つの系統では大黒天はいつの間にか戦闘神になってしまい
ました。また別の系統ではなぜか食厨の神になっていました。この二つの系統
の大黒が中国で合流し、そして日本に渡って来たわけですが、日本に来た時に
日本での大黒信仰に重大な影響を与える混線が発生しました。それは日本に古
くからいる「だいこくさま」大国主命(おおくにぬしのみこと)との混線です。

いったい大黒がどんなに大きな仏格であったとしても大国主命との混乱がなけ
れば今のように厚く信仰される仏とはなっていなかったでしょう。しかもその
混乱は「大黒」と「大国」という単に音が等しい神であったことだけで起きた
のです。

現在の大黒様の像は左肩に袋を負い、右手に打手の小槌を持ち、米俵の上に座
って頭巾をかぶっています。この頭巾がいわゆる大黒頭巾というもので、時代
劇などでふくよかな顔をして実は黒幕、などという性質の登場人物がかぶって
いたりするのでおなじみでしょう。打手の小槌は古い時代の像では宝棒になっ
ています。現在でもこの小槌には如意宝珠の模様が描かれており、仏教への関
わりをとどめています。

古来大黒天を彫る用材は取り壊した古い橋板の2枚目か3枚目を使うとよいと
いう奇妙な言い伝えがありました。そこで大黒を彫ろうとするものは橋大工の
所に行って古い橋板の2枚目か3枚目を確保しておいてくれ、と頼む訳ですが、
橋はいったんバラバラにしてしまえば、どれが3枚目だったかなどということ
はその場にいなかった者には分かりません。そこで生まれた川柳が『橋大工、
どれをくれても三枚目』というものです(^^;

ところで大黒というのはその起源であるシヴァ神と同様、性的な性格を持つ仏
でもあります。それを如実に表しているのが備前焼の大黒天で、この大黒は後
ろから見ると男性性器に見えるように作ってあります。つまり頭巾が亀頭、米
俵が睾丸に見えるのです。また、大国主命には大物主とか大穴牟遅という別名
がありますが、この大物主とは巨根を持つという意味、大穴牟遅とは多数の穴
(膣)、つまり妻を持つという意味だ、という説をとなえる人もいます。

そもそも大黒の持つ袋は子宮の象徴と考えることができ、当然小槌は陰茎です。
つまり大黒の姿はそのまま男女の和合を表現しており、生殖、つまり豊饒を祈
願する形を取っているのです。これは農耕民族にとっては重要な願いでした。

ところで大黒様のお使いは鼠です。これは大黒様が豊饒の神ということで、米
を食べる鼠を管理していると言われています。或いはこれは鼠が多産であるか
らかも知れません。またある説では、大黒はその名の通り、黒い色ですので、
黒は五行では北で、子の方角なので鼠が出てくるとも言います。

なお、お寺に大黒様が祀られる場合、しばしば三面大黒という形式のものが作
られました。これには幾つかの流儀があるのですが、最もよく見られるのは、
正面が大黒、右が毘沙門天、左が弁財天というものです。インドでは1面3目
2臂、1面3目4臂、1面3目六臂の像があるそうです。目が3つというのは
まさにシヴァ神の象徴でしょう。

大黒天の真言はオン・マカキャラヤ・ソワカ。種子はマです。

大黒についてはまだまだ書きたいこともありますが、今回は、最後にめでたい
大黒舞の口上を書いてこの稿を閉じておきましょう。

  御座った御座った  福の神を先に立てて 大黒殿が御座った
  1は俵を踏んまえて 2にニッコリ笑って 3に酒を作って
  4つ世の中良うして 5ついつもの如くに 6つ無病息災に
  7つ何事も無うして 8つ屋敷を広め   9つ小蔵をぶっ建てて
  十でとうとう納まった
  大黒殿を見なさいな 見なさいな



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