閻魔天

閻魔天(えんまてん)は一般に閻魔大王の名前で知られています。

八方天及び十二天の一で、方角としては南方に配置されています。インドで
はヤマといい、元々は世界で最初の人間であり、結果的に最初の死者であり、
最初に冥界に行った人物とされ、そのまま冥界の王になったとされます。また、
最初の人間であるということから祖霊の王ともされます。ヤマは水牛に乗り、
手に人頭の幢(とう)を持つ姿でよく描かれています。

ついでですからここで八方天を羅列しておきますと

 四方 東 帝釈天(インドラ)   四維 東南 火天(アグニ)
    南 閻魔天(ヤマ)        西南 羅刹天(ナイルリティ)
    西 水天(ヴァルナ)       西北 風天(ヴァーユ)
    北 多聞天(クベーラ)      東北 伊舎那天(イシャーナ)

で、十二天はこれに

    上 梵天(ブラフマー)
    下 地天(プルシーブ)
    日 日天(スールヤ)
    月 月天(ソーマ)

を加えます。多聞天は四天王としても北に配置されていますね。

さて閻魔が支配する地獄というのはどのような世界でしょうか。これは日本の
お寺ではしばしば次のように説明されています。これは仏教と道教が混在一体
となった世界です。

まず亡者は死ぬと初七日に三途の川(さんずのかわ)を渡ります。そこの河原
が賽の河原(さいのかわら)です。三途の川には流れの速さの急な所と緩やか
な所があり、どこを渡るかは生前の罪の重さ次第で決ります。

 山水瀬 浅瀬 罪浅き人が渡る
 江深淵 深瀬 罪深き人が渡る
 有橋渡 金銀瑠璃玻璃の橋 罪無き人が渡る

この三途の川を渡った所には衣領樹(えりょうじゅ)という木があり、木の上
には懸衣翁(けんえおう)、木の下には奪衣婆(だつえば)がいて、亡者の衣
を全てはぎ取ってしまいます。亡者は生前に持っていた飾りを全て捨てて、身
一つで裁きを受けなければならないのです。

さて、亡者を裁く閻魔大王は中国の道服を着、笏(しゃく)を持ち、そばには
牛頭(ごず)・馬頭(めず)が控えています。亡者が閻魔大王の前に連れて来
られるますとそばの鏡に生前に犯した罪が映し出され、その罪の大きさにより
色々な地獄に落されることになります。

その地獄には様々なものがありますが、有名なものは八大地獄です。その各々
には16の小地獄が付随していて全部で136の地獄があるといいます。その
八大地獄とは次のものです。

    等活(とうかつ)地獄         体を裂かれては蘇り裂かれては蘇りして
                   果てしなく苦しむ。生前殺生の罪を犯し
                   た者が落ちる。

    黒縄(こくじょう)地獄       熱い鉄の縄で縛られ熱い鉄の斧で切られ
                   る。生前盗みの罪を犯した者が落ちる。

    衆合(しゅごう)地獄        鉄の山が両側から崩落して体を砕く。石
                   割地獄とも。生前邪淫の罪を犯した者が
                   落ちる。殆どの僧はここに落ちるとか。

    叫喚(きょうかん)地獄       熱湯や火に苦しめられる。生前飲酒の罪
                   を犯したものが落ちる。

    大叫喚地獄                叫喚地獄のもっと苦しいもの。生前妄語
                   の罪を犯した者が落ちる。

    炎熱(えんねつ)地獄         間断なく猛火を身に受けて苦しむ。焦熱
                   地獄とも。邪見の罪を犯した者が落ちる。

    大焦熱(だいしょうねつ)地獄 炎熱で焼かれる。極熱地獄とも。尼を汚
                   した者が落ちる。

    無間(むげん)地獄          火の車・剣の山等で絶え間無く苦しむ。
                   阿鼻(あび)地獄とも。父母殺害や大乗
                   の教えを誹謗した者が落ちる。

マゾの人にはひょっとしたら素晴らしい世界かも知れませんが、普通の趣味の
人には、ちょっと辛い世界です。

なお上記のものは別名八熱地獄と言われる熱い地獄で、これに対して八寒地獄
という寒い地獄もあるといいます。これは、ア部陀、尼剌部陀(にらぶだ)、
アセチ陀、カカ婆、虎虎婆(ここば)、ウ鉢羅(うはら)、鉢特摩(はどま,
紅蓮地獄−ぐれんじごく−とも)、摩訶鉢特摩(まかはどま,大紅蓮地獄とも)
の八個です。

平清盛が死ぬとき、枕元に「無」という字を書いた紙を持つ鬼が現れたという
伝説があります。これは彼を無間地獄に落すという意味だったといいます。
(この伝説を作ったのは源氏方か?)

ところで、日本の地獄に関して、西洋の地獄とは根本的に異なる点があります。
それは西洋の地獄ではそこに落ちたものは永久に地獄にいなければならないの
に対して、日本の場合、そこで一定期間罪のつぐないをしたら極楽へ行けると
いう点です。つまり日本の地獄は受ける苦しみとしては西洋の地獄並みではあ
るようですが、位置付けとしては、西洋の煉獄に相当するものと考えられます。
そして、地獄の中で一番深い、無間地獄にしても26億年過ごせば出ることが
できることになっており、西洋の地獄のように永久に出られない場所というの
は存在しないことになります。

さて、一説では地獄で亡者を裁くのは一人の閻魔大王ではなくて、十人の王で
あるとされています。これは次の裁判官たちです。

    初七日 秦広王         本地は不動明王
    二七日 初江王      本地は釈迦如来
    三七日 宋帝(宋動)王   本地は文殊菩薩
    四七日 五官王      本地は普賢菩薩
    五七日 閻魔(閻羅)王   本地は地蔵菩薩
    六七日 変成王      本地は弥勒菩薩
    七七日 泰山(太山)王   本地は薬師如来
    百ヶ日 平等王      本地は観音菩薩
    一周忌 都市王      本地は阿シュク如来
    三周忌 五道転輪王    本地は阿弥陀如来

現在四十九日に法事をしようとすると忌中が足掛け3ヶ月になってしまう場合、
それを嫌って、代りに三十五日法要で忌開けとする風習がありますが、これは
三十五日で既に閻魔さまの裁きは済んでいるからだともいいます。

よくお寺の庭にこの十王伝説に基づく地獄が作ってあるところがあり、中を歩
くと地獄の十人の王が順に亡者を裁いているところを見られるようになってい
ます。お金のある寺では廻り舞台のようにして十王が出てきて亡者の人形が動
いたりしゃべったりするような所もありますね。

むろん、閻魔大王をはじめ地獄の十王が着ている服が道服であるのは中国の道
教の影響です。

それからヤマにはヤミという妹がいて、地獄の女王であるという説もあります。

それから、閻魔大王のことを書くとき、小野篁のことも書かざるを得ないでしょう。


小野篁は9世紀の漢学者・歌人で、遣唐使を命じられたのを拒否したため隠岐
に流されたものの、その後召し返されて最後は参議にまでなった人です。

この小野篁はこの世と地獄を自由に行き来していて、閻魔大王の陪席裁判官を
つとめていたといわれています。この小野篁が地獄に行き来するのに使った井
戸というのがあって、行く時に使ったものが六道珍皇寺の裏庭に残っています。
帰りに使った井戸は嵯峨野の福生寺の井戸だったのですが、こちらは寺がなく
なってしまい、祀ってあった篁の像は近くの薬師寺が引き受けています。井戸
のあったあたりは竹やぶになっているそうです。

六道珍皇寺は、六波羅密寺や建仁寺の近くで、清水坂に面しています。この付
近はそもそもあの世との境界といわれ、例の飴買い幽霊の話があるのも、この
付近。近くにはその幽霊が買った飴を売っている飴屋さんもあります。

さて、ある時、藤原良相が重い病にかかって亡くなり、三途の川をわたって地
獄の閻魔様の前に進み出ました。すると控えていた冥官の一人が、「この者は
生前右大臣も務め、高潔の人物として知られていた人です。私に免じて生き返
らせて下さい」と言いました。良相がふと見ると、その冥官の顔は小野篁です。
良相が驚いていると、閻魔大王は「まぁ、お前が言うのなら仕方ないな」と言
い、獄卒に彼を現世に戻すよう命じました。この結果良相は生き返ります。

数日後、良相が宮中で篁に会ったので、そのことを離すと篁は困ったような顔
をして「あそこにつとめていることは秘密なので、他の人には言わないで下さ
いね」と言ったとのことです。


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