観音菩薩

観音さまというのは日本では恐らく一番信仰を集めている仏でしょう。この
仏様は慈悲の心により、救いを求めている人があったらすぐにそこへ行って
彼らを救済をすると言われており、如来様ほど恐れ多い存在でもないところ
から人気を集めたのではないかと思われます。

観音は観世音の略で、また観自在菩薩ともいいます。インドではアバロキテ
シュバラで意味としては観自在の方が正しく、観世音というのは誤訳だとも
言われます。しかし観音という言葉がこれほど定着してしまった以上、それ
は大変意味のあることだと考えた方がよいでしょう。民衆は意外と真の名に
敏感です。

短いお経として有名な般若心経の冒頭は「觀自在菩薩 行深般若波羅蜜多」
となっています。あの三蔵法師もインドへの旅の途中繰返し繰返し般若心経
を唱えていたといいますが、彼はその中で観音様の名前を何度も何度も呼ん
でいたことになります。

観音は衆生を救済に顕れる時、多くの姿をとると言われます。(観音経に書か
れています。観音経もどこかでその内取り上げることにしましょう)

そういった信仰から成立したもののひとつがいわゆる六観音で、聖観音・
千手観音・十一面観音・如意輪観音・馬頭観音・准胝観音です。(天台宗で
は准胝の代りに不空羂索を入れます)他に竜頭・滝見・威徳などを入れた
三十三観音という数え方もありますが、その中にも子安観音等は入っていま
せんから観音の姿は全部で幾つくらいあるか見当がつきません。

この33という数字は観音様にとって重要な数字で西国三十三箇所とか京都
の三十三間堂というりは、この数字を借りたものです。

その京都の三十三間堂には千手観音が1001体並んでいて壮観というか、いや、
圧倒されるような雰囲気が存在しています。千手観音(大悲観音ともいう)
の本来の形はその名の通り千本の手と千個の目を持っていて、千人同時に救
済する力を持つさとれます。そのくらいパワーのある仏さまだからこそ人口
がいかに多くても世の中の大勢の人を助ける事ができるのでしょう。

しかし三十三間堂の場合をはじめ多くの仏像の場合は手は(合掌する2本以
外に)40本で、各々の掌に目があるという形です。これは1本の手で同時
に25人を救済するというハイパフォーマンスの形式になっています。本当
に千本の手が彫られている千手観音としては、奈良の唐招提寺のものなどが
知られています。

なお、一般に言われる三十三観音をあげると次のようになります。

楊柳(ようりゅう)・竜頭(りゅうず)・持経・円光・遊戯(ゆげ)・白衣
(びゃくえ)・蓮臥(れんが)・滝見・施薬・魚籃(ぎょらん)・徳王・水
月・一葉・青頸(しょうきょう)・威徳・延命・衆宝(しゅほう)・岩戸・
能静(のうじょう)・阿耨(あのく)・阿麼提(あまだい)・葉衣(ようえ)
・瑠璃(=香王)・多羅尊・蛤蜊(はまぐり)・六時・普悲・馬郎婦(めろ
うふ)・合掌・一如・不二・持蓮・灑水(しゃすい)。

西上青曜さんの「観音図典」(朱鷺書房)にはこの33観音の図版が収録されて
います。興味のある方は見てみてください。

観音様は単独で観音堂の中に祀られる以外にも、阿弥陀如来の左の脇侍とし
て、右の脇侍勢至菩薩とともに阿弥陀三尊の形式で祀られている場合もあり
ます。また最近は背の高さが数十メートルもある巨大仏像としてもよく作ら
れています。巨大仏像は鎌倉の大仏(ビルシャナ仏)や奈良の大仏(阿弥陀
如来)などのように純粋に信仰上の理由で作られる場合もあります。

福岡県の朝倉郡には昇龍観音という巨大観音が建っていて、近くを通る国道
からもよく見えます。これは二日市温泉で大旅館を経営している人が若い頃
観音菩薩が夢に現れてお前を護ってやると言ってくれて、そのお蔭でここま
でやってこれたので、というお礼に建てたものです。観音様というのは薬師
如来同様、このように現世利益の要素が高いです。

長崎県佐世保市のハウステンボスのすぐ側に、戦後大陸から引き揚げて来た
人たちが一時居留していた場所があります。敵軍に追われてやっとの思いで
引き揚げて来た人たちでしたが、祖国の土を踏んだ途端ほっとして力尽きて
死んでしまった人たちも多かったようです。その地には現在、その人たちを
慰霊する巨大な観音像が建っています。

ところで、観音に例えば六観音があり、それは観音様の変化した姿と言われ
ているのですが、これは裏側から見ればいろいろな神様が観音菩薩という
ところに統合されたものということも言えます。六観音だけでも少しその
出自を考えてみましょう。

聖観音 アーリア・アヴァローキテシュヴァラ
    種子サ 真言オン・アロリキャ・ソワカ

 これは文字通り観音の本体です。厳密な意味で言えば、これこそが本来の
 観音でしょう。聖観音の出自は不明確ですが、流れとしてはゾロアスター
 教の、世界に遍在する水の女神アナーヒータの要素が含まれているかも知
 れません。ただしアナーヒータは直接的にはインドのサラスヴァティ、
 日本の弁天・市杵嶋姫命につながります。またこの女神は西に伝わると、
 イナンナ(イシュタル)からアフロディーテ(ヴィーナス)にもつながります。

 実際らは、聖観音の要素にはこのアナーヒータの要素とインドの最高神の
 ひとり、シヴァの要素が混在しているようです。
 
 アヴァローキテシュヴァラというのは元々シヴァの別名のひとつです。
 アーリアというのは「高貴な」という意味。それ故、彼らは自分達の民族
 をアーリアと自称したのです。
 
 観音様が男性神か女性神かについては意見が分かれるのですが、霊的なこ
 とに関わっている人の多くは男性神であると断言します。私も観音を男性
 神とするのは男尊女卑思想から来たもので本来は女性神ではないかと思っ
 ていた時期があるのですが、ここ数年の研究の結果、やはり男性神である
 と確信しました。これは変成男子のような男尊女卑思想とは無関係です。

 元々シヴァというのは両性具有的な部分があり、パールヴァティと合体し
 たアルダーナーリーシュヴァラ像などというのも作られています。パール
 ヴァティ(シャクティ)はシヴァの配偶神であるとともにシヴァそのものの
 裏の姿でもあります。恐らく観音の本体というのは、こういう両性具有的
 な要素を持つシヴァにアナーヒータの要素が加わったものなのでしょう。

千手観音 サハスラ・ブジャ
    種子キリーク 真言オン・バザラ・タ・ラマ・キリク・ソワカ

 このルーツはかなり明確です。サハスラ・ブジャというのは元々、インド
 の最高神たるヴィシュヌとシヴァだけに許された称号です。千本の手を使
 ってまで人々を救うなどという親切さは二人の内どちらかというとヴィシ
 ュヌの方かも知れませんが、そもそも多臂の姿形はシヴァ的色彩もあります。

 千手観音には基本的に42臂のものと40臂のものが多い(つまり合掌する手
 を入れて40本なのか別に40本なのかという解釈の違い)のですが、一部
 ホントに1000本彫られている像があります。この像を見て一部の民俗学者
 はあれは本来鳥の翼なのではないかという指摘をしています。世界的に鳥
 が魂を導くという思想があり、神社の御幣なども元々は翼の形だったもの
 が様式化されたものといわれます。つまり千手観音は魂を極楽へ導いて
 くれる救済者なのだというわけです。

 なお、千手観音には二十八部衆という眷属がいます。真言陀羅尼を誦持す
 る者を守護すると言われていますが、その各々の名称は諸説あります。
 二十八部衆の像が見られる所としては、京都の三十三間堂と福岡の雷山観
 音が有名です。

十一面観音 エーカーダシャムカ
    種子キャ 真言オン・ロケイ・ジンバ・ラ・キリク・ソワカ

 このルーツははっきりしません。インドのルドラではないかという研究も
 あるようです。ルドラは風の神であり、シヴァの前世の姿であるとも言わ
 れます。なお、十一面観音といえば歓喜天像で聖天(ガネーシャ)と抱き
 合っている女神がこの十一面観音です。

如意輪観音 チャクラバルティ・チンタマニ
    種子キリーク 真言オン・ハンドマ・シンダ・マニ・ジンバ・ラ・ソワカ

 このルーツもはっきりしませんが、名前からしてチャクラとの関連が想像
 できます。なお、この真言が有名な光明真言と似ていると思われた方も
 あるでしょう。光明真言は下記の通りです。
 
 オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・ダラマニ・ハンドマ・
 ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン

馬頭観音 ハヤグリーヴァ
    種子カン 真言オン・アミリト・ドバンバ・ウン・パツタ・ソワカ

 これはこのままハヤグリーヴァという名前の神様がインド神話に出てきま
 す。馬のたてがみを持つ神で、ダーナヴァ族の王ということになっていま
 す。この観音は明王的な性格を持っていたようですが、日本の民間信仰の
 中ではいつの間にか農耕馬の守り神になってしまったようです。現在では
 競馬ファンでレース前に馬頭観音にお祈りしていく人もいるそうです。

准胝観音 チュンディー
    種子ボ 真言オン・シャレイ・シャレイ・ソンデイ・ソワカ

 観音の女性神格の代表のひとつですが、元々チュンディーというのは
 シヴァの妃のひとり、ドゥルガー女神の異名のひとつです。
 
 ドゥルガーというのは古代の神々と阿修羅との戦いの時に神々が共同で
 産み出した荒々しい女神で、三叉戟・円盤・ホラ貝・槍・雷・鈴・水瓶を
 持ち、ライオンに乗って進軍する強い女神です。この女神の登場によって
 戦況が大いに転換したのです。

 実質的にはこのドゥルガー自身がシヴァの暗黒面を表す女神であるとされ
 ます。しかし後にはこのドゥルガーの怒りから更に激しい女神カーリーが
 生まれたとされたため、ドゥルガーはライオンを従えた美しい女神として
 描かれることが多くなりました。
 
 またチュンディーという言葉はチュンティー(泉)にも通じるといわれてい
 ます。つまり准胝観音は水の女神という性格も強く持っており、仏教的に
 は水の浄化の働きにより清浄をもたらす女神ともいわれます。

 女性性器を俗に観音様というのですが、そのあたりのイメージ的連関が、
 この付近の関わっているのではないかというのは多くの人が指摘するとこ
 ろです。

不空羂索観音 アモーガ・パーサ 又は マヘーシュヴァラ
   種子モウ 真言オン・ハンドマダラ・アボキャジャヤニ・ソロソロ・ソワカ

 この名前のひとつマヘーシュヴァラはシヴァの有名な異名のひとつです。
 日本では摩醯首羅天(まけいしゅらてん)として信仰されています。そもそも
 不空羂索観音の多くの像は額に第三眼を持っており、これはまさにシヴァ
 そのものといえるでしょう。

白衣観音       種子ハン
 オン・シベイテイ・シベイテイ・ハンダラ・バシニ・ソワカ

揚柳観音       種子サ
 オン・バザラダラマ・ベイサジャ・ラジャヤ・ソワカ

(94-08-09)
(96-03-07改訂)
(00-08-21改訂)


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